の体は傷だらけだ。俺は小さい頃からそれを知っていたし、わかっていた。
すごく痛そうな傷ばっかりなのが理由の全てじゃなくて、俺はすごく不思議な、ギュッと何かを掴まれるような気持ちになって、思わず顔がぐにゃりと歪む。
はそれをしっているのか少し笑って、久しぶりでしょう?これ。あれから、沢山、増えたのよ、そういってにこりと笑った。綺麗だ。その笑顔はちっともいやらしいものでも気持ちの悪いものでもなくて。すごく綺麗な笑顔だった。
こわい?そう言ったに俺はふるふると首を横に振った。だって本当に、こわくなんてなかったからだ。そうするとはまた笑ってそう、小さく言った。俺はもう頭が可笑しくなりそうで、なのに冷静で、本当、おかしな気持ちだ。
「、ぁ、あ、」
「・・・、・・」
薄暗い部屋の中では苦しそうにふうふう、と熱い息を吐いてる。女って、こういうときみんなこんな顔して、こんな息をするのだろうか?俺は、これが初めてだったけれど、は特別な気がした。だけは、特別で、一番切なくて、特別色っぽくて、他にないくらい悲しい顔をすると思った。
「晋、苦し、い?」熱くて、この薄暗い部屋に溶けてしまいそうな吐息にまた首を振った。もちろん、横に。けれど今度は少し嘘をついた。本当はすごく苦しくて、切なくて、胸も、と繋がってる部分も全部がギュッとする感じがしてた。
なあ、、俺はいままだたったの14歳で、お前はもう23歳もある。俺、お前とこんなことする日がくるだなんて思ってもみなかったよ。
俺とお前がはじめて会ったのが、俺が5歳の時で、お前は14歳だった。ああ、今思えば、は、今の俺と同じ歳なんだな、
それから俺はお前のことなんてちっとも関心がなくて、ふたりとも干渉し合わずに生きてきた。けど、けどな、俺、今でも覚えてる。俺が7つになったとき、教えてくれた事。
「うっ、うあ、うああ、ひっ、」
「晋、泣かないで、」
天人だ。俺の全てを天人が奪い、消し去った。家族も、家も全てだ。そのとき、ふたりだけが生きた納屋では何度も俺を泣き止まそうと声をかけて、それでも泣き止まない俺を見て少しだけ息を吐いて、まるで、何かを決めたようにして言った。
「いい?悲しむっていうことを、教えてあげる。」
「、かな、しむ、?」
するり、と音を立てては身に着けていた質素な着物を脱いだ。俺は驚いて、それから恥ずかしくなって体が強張った。動けない俺には近づいてきて顔を向けさせた。無理だ、怖い、女の裸なんて、こわい、
けれど俺が見せられたのは想像していたような女の肌じゃなくて、胸の周りにはいくつかの傷がついていて、それは治療なんてしてもらっていなくて、自然と乾燥して堅い皮膚になったんだろうとすぐにわかるような傷。それがいくつもある白い肌だった。
「いい?見てなさい、」
は解けた帯の中から小さな刀を持ち出してそれで鎖骨の辺りにひとつ、深い傷をぴっ、とつけた。そこからは綺麗な赤色の地がのろり、と垂れてきてツツ、とつま先まで落ちてきた。俺は、何がなんだかわからなくて動けない。
「いい?晋、悲しむっていうのは忘れないことなのよ。」
忘れないこと、はそう頷いた。「私は、まだ子供だから、こうしなくちゃ忘れてしまうから」
俺はただただ何がなんだかわからなくてそれでもどうしてだか目から涙が流れるのがわかった。俺も、まだ子供だから、忘れてしまうから、
「晋、あのね、あのとき、子供だから、って、ぁ、いっ言ったでしょう、?」
「ッ・・は、うん、ふ、」
「あれね、ご、めん、違ってたの、あれ、ああっ、」
「なッにが、はっ・・」
苦しくて、苦しくて、息が出来なくて息に声が少しだけ混じってるみたいに湿ってた。苦しい、
「子供とか、じゃ、なくて、忘れちゃう、あっ、ぅ、ものみた、い、ふ、」
ずんずんと俺がを揺らすたびどうしてだか俺もぐらぐら揺れる気がする。苦しい、息が、胸が、苦しい、きっとこれが切ないっていう気持ちなんだと思った。
「ごめんね、晋、ごめん、」
「うん、」
苦しくて、切なくて、俺ももどんどん変わっていって、はもうすぐ死ぬんだ。分ってる。
もうあと少ししか生きられないから、俺はを抱いて、は俺に抱かれたんだ。わかってる。
だから、だから、
「切ないよォ、」
そんな顔しないで、
絶対、おれ、お前のこと、のこと、忘れないから、
子供みたいな顔して、湿った空気の中聞こえる水音だとか、声だとか、こんなに切ないだなんて、
苦しい、
なあ、俺、お前の事、絶対、忘れないから、
だから、お願い、
泣かないで、
悲しむということを教えてあげるから、