お清ばあが次の日につくってくれた玉子焼きは甘かった。そしてとびきり厚かった。お清ばあは、俺の母親じゃない。わかってんだ、それ。






「甘ぇなあ、」
「ん、ああ、甘いなあ、お清ばあの玉子焼きは。」
「ねえ、甘ですよねィ。これ、」
「・・ん。甘いなあ。」




なんとなくお清ばあのよそってくれた白い飯と甘い、甘すぎる玉子焼きを食べながら口にした。別に、何か意味があって口に出したわけじゃないのに、それを二度口にした時には近藤さんは俺でも気づいていないような意味を理解していた。近藤さんは、すげえやなあ。
甘い、玉子焼きを箸で割りながら食べては二、三度噛んで飲み込む。それから白い飯を箸いっぱいに食べる。飯は、炊いてくれたひとの味が出る。子供のころからずっとそう思っていた。お清ばあの炊く飯は、お清ばあの手、古い、ぬか漬けのような懐かしい味がする。その飯は、うまい。俺は昔からどんな豪華な飯よりなんとなく一番白い飯が好きだった。あと、江戸に来てからは、お清ばあの甘い玉子焼きも好きだ。




「お清さんなぁ、」
「・・・・・。」
「今週の末に、息子さんのとこ、行かれるそうだ。」
「・・・そうですかィ。」
「ああ。」
「・・・あ、その魚、俺が食うから。」




近藤さんの言葉になんでもないように答えて、わざとその辺にいる隊士に話しかけた。その魚、俺が食うから。
俺は腹いっぱいだけど一切れのめざしを口に含んで飯も掻き込んだ。それから、一番最後に一切れだけ残しておいた玉子焼きを食べた。やっぱり甘かった。すごく。










「なあ近藤さん、」
「おお、なんだトシ。」
「総悟、あいつ、今日珍しく真面目に仕事してんだ。」
「・・そうかあ。」
「槍でも降るんじゃねえか。」
「ははは。降る、かもなあ。」
「あいつ、ホント、真面目に仕事したんだよ。」
「うん。」
「心配だな。全く。」
「総悟がか?」
「いや、・・明日の天気だよ。」
「はは、そうか。」
「そうだよ。」