お願いだからそこをどいて、お願い、

















しとしと雨が降ってる。空は濁っていて気分が悪い。
傘は折りたたみだから肩が濡れる。本当に気分が悪い。


仕方のないことだったのだから、仕方がない。
彼は私じゃない人を好きになってしまった。ただそれだけ。
それだけなのに、胸が酷く重くてキリキリする。気分が悪い。
面と向かって好きだなんて言われた事はなかったけれど、なんとなくいつかは彼と並んで歩けるような気がしてた。
クラスの噂にもなったし、お互いが意識してた。だから照れたんだ。素直に好きっていえなかったんだ。


鼻の奥がツンとしてきた。いやだ、ここは通学路じゃないの。あと少し我慢して、家まで我慢しなくちゃ、
目から何かがじわじわ迫ってきてたけどそんなものには気づいてないフリをする。


だってそうでもしなくちゃ、みっともない事になる。 仕方のない事で、ひとり舞い上がってたんだ。気がついたらもう彼はそこにはいなかった。





ぱしゃぱしゃばしゃ





ローファーに水が入ってきて気分が悪い。
早く、家に、帰ろう、












「なんで泣いてんだ。アンタ、」












いきなり傘の向うから声がした。
傘の間から目の前をのぞくとそこには奴がいた。






「だから、なんで泣いてんだアンタ。」





「・・・沖田・・」





沖田はあたしの目の前をふさぐ様に立っていた。
なに、こいつ・・





「泣いてないし・・・」

「嘘つくな、なんで泣いてんだ。」

「・・泣いてないって言ってんだろ。」

「なんで泣いてんだよ。」







ちょ、いい加減にしてよね。
あたしは泣いてなんかないのに。沖田はずっとこっちを見てる。やめて!
いい加減邪魔なのよ!





「・・・・どいて。」

「は?」

「どいてよ、そこ、帰れないじゃん。」

「てめえ俺の質問に答えろ。」

「・・しつこい。」

「なんで泣いてんだ。」

「・・・し、つこい。」

「だから、」



もう無理だ、チクショウ!何なんだ・・・あたしは負けた。



「う、・・ひっ・・ひく・・」


「やっぱ泣いてんじゃねえか、」


「ばかッや、やろう!!」


「そういや、アイツに彼女できたらしいじゃねえかィ。」



ふざけるな!
どうしてこいつはこんなにも言いづらい核心をいとも簡単につくんだ。
それもあたしの涙の理由を知っていながらあたしを更に深い所へ突き落とすんだ。
このサディスト!




「なっなんなのよ!アンタ!い、いい加減に、、し、してよ、ね!!!」




ふざけるな!本気であたしはキレそうだ。
なんのつもりなの?黙りなさいよ!いい加減にしなさいよ!




「お前こそふざけんじゃねえ。」




なんですって、あんた、あたしは大真面目だ。
じゃなきゃあんたみたいな嫌なやつの前でこんな無様な姿をさらさない。





「なにが、よ!!」





もうあたしの顔はぐしゃぐしゃだ。傘なんていらない位に涙とか鼻水とかでぐしゃぐしゃだ。





「自分だけじゃねえんだよ。」





当たり前じゃない。だからあたしの恋はもぎ取られたんだ。
まだコイツはあたしを深い深い所へ落とすつもりか?


ざーざー、雨はやまない。


「なにを、あたり、前なッこと・・!」

「わかってねえから言ってんだ。」

「わかって、るわよ・・!だ、だから、あたし、失恋した、のよ!」



ついに自分の口から口にしたくない事実を口にした。失恋よ。







「おまえがアイツが好きだったみたいにいにおまえを好きなやつもいんだよ。」







馬鹿みたい。なんなの今度は慰め?いい加減にしなさいよ。あたしを哀れむつもり?
くそやろう!




「なッにが・・いいたいのよ・・!!」

「お前が傷ついてるみたいに俺も傷ついてんだよ!ふざけんな!」




急に沖田の声が凄味を増した。思わず、身体が強張った。




「な、なによ・・・」




なんだか喉がつまってうまく声が出ない。
やっとの思いででたのは自分でも驚くくらいか細い声だった。




「自分だけがとか思ってんじゃねえよ!お前のそういう所がイライラすんだ!」




大声で怒鳴られる。雨は相変わらずうるさくザーザーいっている。




「・・・ひ・・」




こ、怖い・・・




どんどん沖田が近づいてきた。怖い、怖い・・




「ひっ・・・・!!」



















ばしゃっ!



















勢いよく道路の水溜りを引っ掛けられた。
あたしの足元はびしょびしょだ。な、なんだコイツ、







「よく考えろ!くそ女!」







そういって沖田は帰っていってしまった。



灰色の空気と雨音で悪い視界の中、沖田の後姿から目が離せなかった。




















音のラプソディー





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こ、こんなの沖田さんじゃない・・・・!ごめんなさい!
変換もない・・・ありゃ。

06