このひとは昔っから趣味の悪いひとだった。誕生日の赤い薔薇なんて嫌気がさしたし、馬鹿みたいに呟く甘い言葉にもこれっぽっちのセンスも感じられなかった。ディナーやランチの時に選んだレストランだって最高に趣味の悪くて頭の悪い女が喜びそうなところで、車だってその中身だって最低だ。セックスの趣味も悪くて、私はいつだって感じたような下品でぶっとんだ声をあんあん出してはそんな声を聞いて嬉しそうにする私の股にペニスを突っ込む男に吐き気を催していた。言うなら感じていたのは哀れさだと思う。


「なに、これ。」

「プレゼントですよ。」

「へえ、」

「君によく似合うんじゃないかと思いましてね。」

「最高に頭の悪い色ね。」

「そうでしょう、君によく似合う。」

「言うじゃない。骸のそういうところ、嫌いよ。」

「おや、初耳ですね。君、僕に好きなところなんてあるんですか?」

「あら、そうね、ごめんなさい。間違えたわ、そういうところも、嫌いよ。」

「クフフ、でしょうね、」



私達ってお互いがお互い自分は頭が悪くなくって目の前のこいつよりも優れていて自分は頭のいい人間だと自惚れている。だからこんな会話してプラトニックぶってるけれど実際はこれっぽっちもプラトニックなんかじゃなくて頭の悪い動物同士。会えば必ずどちらとも無く裸になっていてそれから下品にあんあん言い合ってる。馬鹿ね。それでいて、最低。つまりは頭がいいふりをして一生懸命思っても無くてもそれが哲学的で美しい響きなら迷わず口にする最低の馬鹿同士。ゲロが出そう。


「あ、あう、あん、あっ、あっ」

「今日は、よく鳴く日ですね、」

「ばっ、かいってんじゃ、ないわよ、あっ!、あ、わたし、あんたのそういうとこ、も、き、あん!あ、きらいよ、」

「そうですか、」

「やっ!あ、あ、ああ!あん!」

「おや、イきました?」

「最高に、げ、ひん。」

「本当に。」




私は一度だってコイツを好きだと思ったことは無い。もちろんそれは骸も一緒だ。ねえ、何でかしら、それでも私は骸のこと、





「愛してるのよね。」
「僕もですよ。」
「わたし、あんたのことなんて好きじゃないけどね、愛してはいるのよ。」
「でしょうね。」
「奇遇ね。」
「本当に。」
「わたし今最高にこれであんたの首を絞めたい。」
「どうぞ?」
「最高じゃない?愛した女にプレゼントしたガーターベルトで殺されるだなんて。」
「中々、いい死に様じゃないですか。」
「嘘よ。」
「嘘ですか。」
「ああ、もう馬鹿みたい。わたしもう寝るわ。」
「おや、本当に嘘だったんですか。」
「当たり前でしょう。あんたがマゾで私がサドだったらそんなことでも快感になったかもしれないけどね。」
「そうですか、でもあながち間違いじゃありませんよ。」
「なにがよ。」
「僕はサディストです。君が苦しそうな顔をすればするほど興奮する。」
「気持ち悪い。じゃあデートであんなレストランやらホテルやらに連れて行かないでブタ小屋にでもぶち込んで繋いでおいたらいいじゃない。」
「僕は君が喜んでいるのも好きなんですよ、矛盾してますがそうでしょう?愛した女性を喜ばしたいのは当然の事ですから。」
「矛盾ね。悪いけれど私マゾじゃないの。残念ね。」
「おや、それは好都合です。言ったでしょう?僕は君の苦しそうな顔で興奮するんです。」
「なにが言いたいのよ。」
「君がマゾヒストじゃ僕の心は満たされないんですよ。」
「どういうことよ。」
「つまりですね、サディストとマゾヒストの組み合わせがベストなんかじゃないんですよ。サディストの最高の快感は愛するサディスト苦しめる事なんですから。」
「ああ、そういうこと。根っからの変態ね。」
「クフッ、そうですね、」
「もういいわ。寝る。おやすみ。」
「おやすみなさい。そのまま舌噛んで死ぬとかやめてくださいね。」
「もちろん。」









私はあなたのことをちっとも好きなんかじゃないけれどとても愛しているのよ、おかしなはなし。