「あのね、もしも骸の体のどっかを取れるんなら私、足を取る。」

「はあ、」




いきなり何を言い出すんだろう、久しぶりに会った彼女はすこしだけ寒そうにして必要なものしかない部屋で僕にそう言った。 一体なんなんでしょう。僕の体を?痛いはなしは君ダメじゃありませんでしたっけ?ずっと前に君がイタリアの話をしてくれというから色々と(まあ、色々と)僕の知っている事を話したらすごく怖がって一週間野菜しか食べなくなったじゃないですか。そんな彼女が僕の足?痛い痛い。
きっとよくわからないというような顔をしている僕を見ている君はいつもと同じようで少しだけ同じじゃなかった。




「どうしたんです?いきなり。」

「いやー、んー、心境の変化ってヤツです。最近は生クリームよりチョコクリームが好きになりました私。」

「ああ、じゃあこれからはお土産はショートケーキよりチョコレートケーキの方がいいですね。」

「うん、わー、それってすっごい嬉しい!」

「それはよかった。」




それじゃあ次はベルギーにでも行ってきましょうか?それで特別おいしそうなチョコレートを買ってくるんです。格別に大きいものを。そう言ったら彼女はすごく嬉しそうに笑って、身振り手振りで学校の科学の先生がくれたという大きな大きなチョコレートの話をしてくれた。




「あのね、すっごいのもう!なんかえー?これ新種の岩石ですか先生!って感じでね、先生手袋してんの!ほら、溶けるでしょ?いくら見た目岩石でもチョコだからね!そんでね、内緒ですよーって言って、あ、先生ってすごいね笑い方するの、おじさんだけど犬みたいに!でね、私とねみっちゃんとね、やましーとね、さっちゃんとあずに綺麗なトンカチみたいなので端っこのほうを、あ、チョコをね!叩いて手の平くらいの大きさにしてそれ、いっこずつくれたの!」

「へえ、よかったじゃないですか。」

「うん。もーすっげ嬉くてさあ、みんなで内緒ねー!って言いながら帰ったの!こっそり!で、みんなでいひひ!ってチョコを食べたんだけどすごくすごく硬くて、ヒー!何だこれ!歯が折れる!って感じで、それでもね、すっごーく甘くてね、硬くて、もそもそしててね、なんかすっげー嬉しいねー!って帰ってきたんですよ。」

「そんなに?硬かったんですか。(ていうか女子中学生がでかいチョコレートかじりながら下校ってどうなんですか。)」

「うん。ヤバイねあれは。私、歯には自信あるんだけど、ほら、前に言ったでしょ?ビーズ歯で噛んでわれるって。骸はやめなさいっていってたけど。」

「ああ。まさかまだアレやってるんじゃないでしょうね。」

「え、や・・ってないよ!」

「そうですか。ならいいですけど。(絶対やってるなこの子。)」




これもまだまだ昔のずっと前に彼女が教えてくれた。ビーズを歯で砕くってどうなんですかだめでしょう確実に。いくつですかあなた。それからチョコレートの塊を片手に下校している女子中学生を見たら僕は確実にひきます。




「うん。あれ?何のはなしだっけ?」

「チョコレートの話でしょう?」

「あ、そうだそうだ。」




僕は君にそんな硬いチョコレートは買ってきませんよ。きっと、すごく綺麗な形をして、すごく綺麗なドームのような形をした箱に入った生クリームだって沢山入った溶けそうにやわらかいものを買ってきます。
あ、でもそういえば生クリームよりチョコレートでしたっけ?でもいいでしょう、君はおばかさんだから、チョコレートはチョコレートのまま木になっているとでも思ってるんでしょう。そういったらはすごく心外だ、というような顔でむすっとしてなんだかその顔がすごく丸くて面白くて笑ってしまったら更に丸くなった。(クハハ!)



「どこまで私を馬鹿にしてんですかオイ!チョコレートが生まれる前はカカオだってことくらい知ってるよ馬鹿!ナメんなよ!お前!私小学校四年生の時あれだからな!明治の工場見学したんだからな!マジ!カカオの粉とかナメさせてもらったしね!もーお土産もどっさりだからね!もっさりどっさりですよこのヤロー!」

「そ、れは失礼しました。クッ、ハハ、」

「笑ってるだろコノヤロー!!なんだよ!なんか変な語尾みたいになってるよクッハハ!(こんな感じですよみなさん!)」

「クハハ、」

「やめんかコヌヤロー!!」

「クハハハハハ!」

「ねえ骸おねがい!そーやっててずっと!」

「、?なんですか?いきなり。」

「ずっとずーっとそうやってなんでもないことで笑って、それで普通にしてて、」

「どうしたんです?」

「あのね、お願いだから、また何処かへ行って傷だらけになんかならないで、危ないことしないで、怖い目にあわないでひどい目にあわないで、痛い目にあわないで、悲しいことしないで、心配させないで」

、」

「骸がどっかでなんかすごい大きなことしてるのは知ってるけど、

けど、もうどこにも行かないで、」




「私、骸がどっかへいっちゃうなら、骸の足を貰ってもうどこにも帰さない、」




そういって寒そうに体を冷やして声を震わしては泣いた。ぽつりぽつりとすごく綺麗な目をして綺麗な涙を流して。寒そうにしているのに体はちっとも震えていないで、けれど声は横に縦に小さく揺れている、これが全部僕のせいだと思うと柄にもなく体がじわりと揺れた気がした。いつもは馬鹿みたいに甘い言葉をかけられるのに、どうしてだか今の僕は何もいえない。君のためならいいよ、どこにも行かないから大丈夫。そういいたいけれどそれは約束できないんだ最低な僕。ごめんなさい、ごめんなさい。優しくて甘い言葉ならいくらでも吐けるのにどうしてだろう、嘘はつけないんだ。







どこにも帰さない、はつけない。



060925(嘘はつけないんだごめんね)