「お久しぶりです。」
「なんだよ、急に。」
わたしとあなたに必要なものって、あなたとわたしで、それから空気と水と食べ物だけかもしれない。
言葉は難しくてならない。わたしが投げた言葉があなたには違う形で届くかもしれない。あなたがわたしの言葉をどんな風に受け取ったかなんて一生知ることはできない。これ、当然のこと。
ねえあなたは今なにを考えてる?この白いシーツの波の上でその薄く開いた瞳でなにを感じてる?わたしにはわからないそれがひどくもどかしい。
「ことばなんて、なければいいのにね。」
「あ?」
そうよ、もし、この世に言葉なんてものが存在しなかったなら、わたしの中の何かがもっと研ぎ澄まされてあなたのこともっとわかるかもしれないのに。真理を見つけられたかもしれないのに。
「人間ってほんと愚か者。」
「なんだよさっきから。」
だってそう。自ら言葉なんて器を作り上げてしまったせいで相手の真理は一生わからないんだもの。
そういうと土方さんは気だるそうに言った。
「俺ァ別に、わるかねえと思うぜ。」
「どうして?」
「まあ、あれだ、つまりはな、本質なわけだ。大切なのは。」
「どういうこと?」
「重要なことはひとつ。それがわかれば共有することなんて容易いわけ。」
ああもういいだろうが。そういって土方さんは私に背を向けて寝てしまった。ああそうねそうだ、あなたはよっぽど哲学的で、粗忽で、
「土方さん、土方さん、」
「うるせー。」
共有するものはひとつ、あなたとわたしの存在とそれから気持ち。そういうことね、そんな風に考えながら枕もとの金魚鉢にぽちゃりと手を突っ込んだ。
ふたりの哲学
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