いやだいやだ、本当にいやだ。こんなことあるはずない。
いつかはこんな日が来るかもしれないとうっすらと思っていたことも事実だけどこんなことはあってはいけない。
やだ矛盾なんてしてない。だってその通りなんだもの。
誰か今すぐこの人の赤黒い汚れを全部綺麗にして、お願い。
「山崎くん、・・」
「っは、い・・・」
「今すぐ、タオル、たくさんよ、それからお湯を持ってきて・・・」
「・・え・・?」
「いいから今すぐ!!」
「え、あ、」
「はやく!!!!」
「っはい・・!」
白いタオルを洗面器にぴたりと張られたお湯を浸してこの人の顔を拭っていく。
ああ、そう、よかった、汚れはとれてだんだんといつものあの人の顔になる。よかった、よかった・・・。
「さん・・・」
「、さん、」
「さん・・・・!!!」
その瞬間私は後から腕を掴まれた。なによ今から体をふいてあげるの。邪魔をしないで、こんなにもこの人はまだ汚れているんだから、
「やだ、離してよ山崎くん。」
「さん、もう、よしてください・・・。」
「どうして?」
「もう、意味が無いんです・・・!」
「なに?何を言ってるの?」
「そんなことしたって、」
「なに?はやく言って。」
彼のどうしても核を突きたがらない言葉にどうも苛立ちを押さえられなかった。
こうしている間にも私の腕はタオルを強く握り締める。
「もう、意味が無いん、です、・・・」
「どうして?」
「・・・・副長は、もう、」
「もう?」
ぐらり、揺れた、視界が、
「起きません・・・・。」
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌。そんな意地悪なにが楽しいのよ。だってそんなはずないじゃない。
来月には祝言だってあるのよ?お婿さんがいない祝言なんて馬鹿げてる。そうでしょう?ねえ?山崎くん。
そう訪ねると山崎くんはわッと泣き崩れてそのままそっとこの人の手のひらを私の頬に当てた。
その手は酷く冷たくて相変わらず冷え性ね、と、ふふふと私は笑って山崎くんは何故だかずっと泣いていた。
冷え性
06.5.11