ガタンッ! 「ひいっ・・・!!」 にゃー 「ね・・猫か・・(ほ)」 こ、怖い。只今の時刻、午前三時。そしてわたしが昼間見たのはホラー映画。 昼間は隊士のみんなでビデオを見ていたからそんなに怖くなかったけど( それでも絶叫だったらしい )(・・・) お風呂に入って髪の毛を洗っている時に怖さがこみ上げてきて布団に入ったら怖さ倍増でもうダメだ・ ・ ・ ! ! とりあえず今の状況は頭まで布団をかぶって顔だけ出している。(これじゃあたしも化け物だよ) ああ、怖い怖い怖い。もう少しでも物音がすると飛び上がりそうだ。猫にまでビビッてる始末です。 ちょっと前までは夜勤の隊士さんがうろうろしてたみたいだけど、見回りに行ってしまったらしく物音もしなくなってしまった・・(さ、最後の希望が・・!) ああ、どうしようどうしよう・・・よし、もう寝よう。寝るんだわたし。そう思い目を閉じるけど瞼がひくひくするだけでちっとも眠れない。 いや、そうだ。楽しいことを考えよう。えーと、えーと・・・あ、この前見たお笑いおもしろかったなあ・・・相方のひとカッコイイし。 あ!あのネタ!ブフーッ!ひ、ひひ・・!お?いいんじゃないいいんじゃない?怖さ紛れてきたよ。怖さ・・・こわ・・怖くなってきた・・・!(ガッデム!) カチカチカチカチカチカチカチカチカチ 時計の音がやけに大きく耳に響いてくる。あれ?時計ってこんなに音が大きかったっけ? なんだよ、こんな時に・・!これからはデジタル時計にしてやる・・!! パキンッ! 「ぎゃっ!!」 え?やばいよやばいよ・・!今の絶対ラップ音だよ!マズイって!いるよこの部屋!なんかいるよ!さっき耳鳴りしたし! もうダメだ!ダメだ!そう思い少し手を伸ばして携帯に手をかける。 カチカチペコ、 TO 土方さん 起きてますか?寝てたらすみません・・・! パコパコぼたんを押して送信。怖くて怖くて誰かにメールしようと思って結局土方さんにメールをした。 きっと他の人にメールしただなんてバレたらなんで俺じゃないんだとか声には出さないけど怒るんだよ、あのひと。 起きてるかなー?なんて考えていたらいきなり手元の携帯がヴィーン!と動いたのでまたビビッてしまった。(・・・) FROM 土方さん RE; 起きてる な、なんだ・・!無愛想な・・!別にいいけどもう少しなんか使おうよ・・!"起きてる(にこ)"みたいな!あ・・それはそれでちょっと嫌かも・・ それでもまるくらいつけて欲しい。( 仮にも彼女だぞ )( 一応・・・ ) カチカチカチ TO土方さん RE;RE; まるくらいつけて下さいよ・・!あのー、今なにしてます? 少し不満をこぼしたメールをまた送信する。しばらくするとまた携帯がぶるるっと動いた。 ちょこっとだけわくわくして携帯を開いて見るとそこには、 FROM 土方さん RE;RE;RE;-- 仕事。 こ い つ ・ ・ ・ ! なに?!この嫌味な返し方・・!まるつけて下さいとは言った。確かにそこは言った。だからってこれはないだろう・・ ホントに女心のわからないヤツめ・・・!マヨラー! TO土方さん まるをつけろとは言いましたけど、-- そーいう事じゃないです。 送信。今度は不満だけの並べていない。ふんだバカ!ひとり布団の中携帯の光だけ頼りにしてたら今度は思いのほか早く携帯が揺れた。(ビクッ!)(・・・) FROM土方さん RE;まるをつけろとは言いましたけど、 お前結局何でメールしてきたんだよ。 こ れ だ 。 あーあーあー。すみませんでしたー。すーみーまーせーんーでーしたー、意味も無くメールして! いつもに増してそっけない土方さんに腹が立ってもう返事なんかしてやらない!と携帯を閉じた。 (もう絶対返事しないもんね。)(絶対、)(ぜった、い・・・)(・・・) 「い、一応返しとくか・・(あたしの根性なし・・・!)」 カチカチカチカチカチ TO土方さん RE;RE;まるをつけろとは言いましたけど 邪魔してスミマセンでした。おやすみなさい! ちょっと嫌味に打ってやった。スミマセンをカタカナにしたあたりナイスセンスだわたし。 これでわたしがちょっと怒ってるのがわかって「ああ!どうしよう!ごめんよ!」ってなればいいんだ。そうだそうだ。 おろおろしてりゃいいんだ。ふんだ! 勢いでメールを打って半ばあてつけでメールを送る。どんな風に返事が返ってくるんだろうか?そんなことを考えながら布団にもぐる。 どんな風に、どんな・・・ 土方さんにメールを打ってしばらくしてなんだか少し不安になってきた。どうしよう、怒っちゃったかな?どうしよう、どうしよう・・仕事中なのにメールなんかしちゃって、(しかもあんなきり方・・・!) どうしよう、どうしよう、嫌われた?あれ?もしかしてわたしが悪いのかもしれない?あれ?どうしよう・・・そもそもなんでメールなんてしたんだっけ?・・・そうだ、怖かったんだ・・・!あ!思い出しちゃったよ!やだ・・怖い・・・! そんなことをぐるぐる考えていたら急に昼間のことまで思い出してしまって一気に怖さがこみ上げてきてしまった。ああもう、どうしよう・・・! もうどうしようもなくなって土方さんに嫌われたらどうしようと泣きそうになってまた頭から布団を被った。そうしたらなんだか落ち着くんじゃないかと思ったけれどちっともそんなことを無かった。 そんなときにぺたりぺたりとなにかの音が廊下からし始めたんだから、たまったもんじゃない。 「ひ・・!」 やだ!怖い・・・!どうしよう?さっきみたいににゃあという声も聞こえない。猫じゃない・・・!やだやだ・・・!まさか・・・!いやいや・・・! ふと昼間に見た映画のワンシーンが思い浮かぶ。そんなことを考えているうちにぺたぺたという音も大きくなってきた。もうだめだ・・・!死ぬ・・・!!!! やっぱりこの部屋に近づいてきてる・・・!やだ!どうか巨大ねずみとかそんなんでありますように・・・! "ぺたぺたぺたぺた" あ、あ、あ、あ・・! あ、ああ、ああ、あ、あ、あ、あ・・・・・!あああああああ!! がらり! 「巨大ねずみ!!!!!!!」 「はあ?」 どうか巨大ねずみがやってきただけであるようにと叫んだ言葉に返ってきたのは聞きなれた低めの声だった。 「ひ、土方さん・・・?」 「お前なにしてんだよ。」 恐る恐る布団から顔を出すとそこには土方さんがビニール袋片手に呆れた顔をして立っていた。 「よ、よかった・・・」 「なにがだよ・・」 目の前に現れたのが恐ろしいお化けでもなんでもなくて、ホッとして間抜けな声と間抜けな顔をしてしまった。 は、としてぐしゃぐしゃになっていた髪の毛を手で押さえて布団から飛び起きる。 「どうしたんですか?」 「お前どうせ寝つけなかったんだろ。」 「え・・・!!(なんでそれを・・・!)」 「昼間ホラー映画見てただろーが。小心者だからな。お前。」 「お、おっしゃるとおりでござい・・・」 よいしょとでも言いそうに土方さんが私の横に座る。すこしだけ布団がふわりと動いて土方さんの匂いがした。(やだ、)(わたしってば変態みたい。) それからがさがさと手に持っていたビニール袋を「おら。」そういってわたしに渡してくれた。 じわりと暖かい包みを開くとそこにはぽかぽかと湯気を出すおでんが小さめのカップに入っていた。 「え、」 「それ食って寝ろ。」 「え、」 「俺は忙しいんだよ。」 土方さんはそういってタバコに火をつけて口からふーと白い煙を吐き出した。 そんな彼の不器用な優しさがじわりじわりと暖かかった。(おでんみたい。)(なんて、) 自然と顔が緩む。忙しいんですか。忙しいのに?ふふふ。思わず笑ってしまった。 「忙しいのにわざわざおでん買ってきてくれたんですか?どうも。」 「うるせーな。タバコが切れたんだよ。黙って食え。」 「はあい。」 なんて不器用な人なんだろう。そんな可愛いこのひとの優しさが嬉しくて嬉しくてたまらなくて、愛しくてしかたがない。 気づけばわたしはさっきから締りの無いだらしない顔をしている。 「土方さん、」 「なんだよ。」 「わたしあんまんの方がよかったです。」 「てめえ・・!」 不器用な人だなあ、なんて思いながらタバコの匂いと暖かいおでんの温もりに、ほ、と胸をなで下ろした夜でした。 不器用なひと |