世界のはなし


6歳、


ぼくの名前は雲雀恭弥。きたないものはきらいだよ。
ぼくのせかいにはきたないものであふれてる。だからぼくがおとなになったらそれをぜんぶきれいにしてあげよう。
きたないものはきらいなんだ。さわったら手をあらわなくてはいけないし、なにより手がよごれる。
そんなのぼくにはたえられないよ。くうきだってできるだけきれいなものをすっていたいけど、そこまではいくらなんでもぜいたくだから。がまんする。
でも、おとなになってせかいをきれいにすることはぜいたくじゃないだろう。とても、いいことで、すばらしいことだ。そうおもうでしょ。
だから、はやくおとなになってせかいを大きなせんたくきにかけたようにしてやろう。
ぼくの手はきれいなままで。





15歳、



僕の名前は雲雀恭弥。汚いものは嫌いだ。
世界は汚いもので溢れてる。本当に汚いよ。だからこうして僕が綺麗にしていく。
ただ、汚いものには触りたくないんだ。手が汚れるだろう。だからこうしてトンファーを持つんだ。これなら、汚れない。
空気だって本当はあまり汚いものは吸いたくないんだけど、それは仕方のないことだと我慢しよう。そんなことまで強請るような馬鹿ではない。
でも、こうして世界を少しずつ洗浄していくのは贅沢じゃない。自分の手でそうしていくんだから。贅沢もなにもあったもんじゃない。
僕の手で、僕の手は綺麗なまま、世界が洗浄されていくだなんて素晴らしいことだと思わないかい。
こんな風に喋ると僕は酷く自惚れ屋のような感じがするけれど、そうでもない。ただ、世の中の大半が僕より下らないのは確かだけどね。
さあ、あともう少し大人になったら、もっともっと世界を洗浄していこう。綺麗な、ものにしていこう。
僕の手は綺麗なままで。




23歳、



僕の名前は雲雀恭弥。汚いものは嫌いだ。
世界は汚い。僕は解ったんだ。いや、知ったんだ。世界は汚いもので溢れている。けれど、世界だって汚く醜いんだ。
根本が汚いというのに、何をどう綺麗にしていけばいいんだ。いくら僕が汚いものを消したって、終着点も出発点と同じように汚れているんだから。
こんな馬鹿なことはない。そして幼い日の自分の愚かさと純粋さが情けなかった。空気だって昔は綺麗なものを吸ってみたかった。でもこの世にもう綺麗な空気なんて存在しないんだ。存在もしないものに思い馳せるほど僕は子供じゃない。
手が汚れないようにと持ったトンファーだけど、やっぱり僕の手は少しずつ汚れていった。酷く虚しいことだと思わないかい?
幼い頃、世界の洗浄を夢見た少年は大人になってこの世に絶望するんだから。僕の手はどんどん汚れていく。これからもずっと。そんなこといくら抵抗しようとも避けられないんだ。
手が汚れるのは、とても嫌な事だけれども、仕方のないことなのだから。
僕の手はただ汚くなるばっかりだ。
































「雲雀恭弥くん、他に言う事は?」

「僕は絶望したんだ殺してくれ、死にたいんだよ。」

「できないことよ。」

「僕に希望なんてない。生かさないでくれ。」

「さあ、明日は、もっとお話してちょうだいね。」

「死にたいんだ、ねえお願いだよ、僕を、僕を、」

「だめよ、雲雀恭弥くん。希望が無くとも、貴方は生きなくてはならないの。」

「いやだいやだいやだ、僕はもうだめなんだよ、ねえお願い。」


「だめよ、貴方は生きるの。」

「世界は汚いなんてものじゃなかったんだ、そんな生やさしくない、ねえだめだ。」

「だめでも、その汚い空気を吸って食事をしなくちゃね。」
「世界は汚いどころじゃない、嘘だ、嘘なんだ、全部嘘なんだよ、だってそうじゃないか、地球が丸いだんなんておかしいだろう、側面の人間はどうする?地面なんてないじゃないか、ねえ、嘘ばかりだろう?ねえ、そう思うだろう。」

「側面の人間は落ちるのよ、さあ、そんなことはどうでもいいわ、そろそろ寝ましょう。」

「いやだいやだいやだ、怖いよ、怖いんだ、」

「さあ、おやすみなさい、いいこよ、雲雀恭弥くん。」

「僕は、手が、ああ、手が、手が汚れているよ、ああ、」

「おやすみ、かわいい恭弥くん。」

「あ、あうう、うう、あううううう。」

















29歳、



絶望。