ドリーム小説


















「で、帰ってきちゃったわけ?」

「・・・・うん。」






もう嫌になる。













がやがやと騒がしい教室で目の前に食べかけのサラダとパンを広げて頬杖をつくちゃんにことの大体を話した。
本当はこんな事恥ずかしくて誰にも言いたくはなかったけれど誰かに言わずにひとりで抱えていたら潰れてしまいそうなのだ。(矛盾)(仕方ないじゃない)








あたしの頭は朝からぼやぼやしっぱなしで、そんな頭でも考えることはやっぱり昨日のことだった。
そんな風な具合でごちゃごちゃ悶々としながら騒がしいクラスを見渡していたら目の前にひとりやってきて「ひるごはん。」そう言った。ちゃんだ。
片手にコンビニのビニール袋をそしてもう片方の手にはペットボトルが握られている。それからガタリと椅子をひいてあたしの目の前に座りながら淡々とパンの袋を開けるちゃんを見てもうこの人しかいない。そう思った。
どうしようもなく熱くなる目頭に気づかないフリをしながら「ちょっとはなし聞いてくれる?」そう聞いくとちゃんは短く「いいよ、」そう答えてくれた。(あ、やばい)(泣きそう・・!)
それからもそもそとサラダだとかパンだとかで気を紛らわせながら少し抑え目に昨日の出来事を話す。
銀ちゃんの家に行ったこと。意外とちゃんの家に近いっていうこと。銀ちゃん家にはヘチマがあるっていうこと(それからお母さんがたくましいこと)。部屋でキスしたこと。そこから急に手が止まってしまったこと。その後、ヘチマ片手に帰ってきてしまったこと。
全部はなした。







「で、帰ってきちゃったわけ?」

「・・・・うん。」





ちゃんはへえ、ふーん。といったような顔をしながらいったん下を見てからこう続けた。






「あの、坂田くんが、ねえー・・・・」

「・・・・うん。」



そういってちゃんはがさがさとビニール袋からパックのリンゴジュースを出す。
そしてそれを口にくわえた瞬間廊下の方から大きな声が聞こえた。




「やだー!坂田キモーイ!!」

「なにをォォォォオオオ!?おめーら何言ってんだ!!」

「だってありえねえよ!廊下でエロ本読んでんじゃねえよ!はいキモーイ!マジキモーイ!」

「ってめ!エロとはなあ男のロマンなんだよ!!わかるか!?そしてそのエロを定期的に摂取したい男の気持ちがわかるのか!?」

「キーモーイ!はいキーモイ!!」

「なんとでも言いなさーい。わたくし今このお姉さんの腰に夢中なんでー。」















「・・・・あの、坂田くんがねえ、」

「・・・・うん・・・。(・・・)(・ ・ ・ )」





それからしばらくちゃんはストローをくわえながら廊下を眺めていた。
わたしはなんだかどうしようもなくて下を俯いてなんとも情けの無い会話に耳を傾けていた。
そしてそれからもう一度発せられたちゃんの言葉に我が彼氏ながら恥ずかしいと更に俯くしかなかった。(情けないよ、)(銀ちゃん・・・)(・・・)




「あたしはさあ、」

ちゃんはリンゴジュースをずずっと吸ってからまた喋り始めた。

「うん、」

「なんていうかね、そんなに心配しなくてもいいような気がするけど、」

「・・・なんで?」

「いや、まあ下手なことは言えないけどさあ、」

「うん、」





ー!先生呼んでるよー!」






「あ、やばい、忘れてた・・・!」

「あ、」

「まあ兎に角心配いらないと思うけど、ごめん。ちょっと行ってくるわ。」

「え・・・・?ちゃん?!」





今から自分が一番知りたかったところをちゃんの口から言われようとしていて、ごくりと息まで飲んだのにちゃんを呼ぶ声によってそれは無駄になってしまった。(うっそー!)(なんだこの展開!)
仕方がないのでひとつため息をついてからもそもそと大きめのメロンパンを口にほお張った。
ああ、ホント、やるせないわ・・・。ひとりぼんやりとほお張るメロンパンに顎が痛くなった。(チクショー!)























「、であるからしてー、この公式を・・・」







変に間延びした数学の先生の眠くなる声をぼんやりと受け流しながらノートの隅に何というわけでなくシャーペンでコツコツと叩く。
なんとなく数学の授業を聞くには退屈すぎるし、ぼんやりするには嫌なことしか浮かばない気がしたから。




コツコツコツ  (あ、そういえば今日銀ちゃんと帰る日じゃん、)

コツコツコツ  (やだなー、どうしよ、)

コツコツコツ  (絶対銀ちゃん怒ってるよなー・・)

コツコツコツ  (そうじゃなくても気まずいよ、)

コツコツコツ  (ああ、どうしよう、どうしよー、)

コツコツコツ  (仕方ない、ショート終わったら速攻で帰ろう。そうしよう。)

コツコツコツ  (あ、でも、








なにしてんの?」

「ギャッ!!」





「うるさいぞ、そこ。」





「すみません・・・。」





急に声をかけられて思わず声をあげてしまい、そのせいで先生にじとりと睨まれてしまった。うわ、まだ心臓がドクドクいってる・・・。
声の主は前の席のみっちゃんだった。(ビビッたじゃねえの・・・!)




「なに?みっちゃん。」

「あんたコツコツコツコツなにやってんの?いー加減気持ち悪いよ。」

「え!?そんなうるさかった?!」

「うん。」




そんなに大きな音を立てていただなんて全く気がつかなかった。なんだかそのとき考えていたことまでみんなに筒抜けなんじゃないかなんて恥ずかしくなってきて、自分だけこの教室で吊るし上げられてるみたいに体がヒヤッととした。(やだ、)
みっちゃんは少し体を傾けながら小さな声で


「ところで今日の委員会さ、」

「え!?委員会あんの!?」

「あんた・・今日朝会で言ってたじゃん先生。」

「ま、マジでか・・・!」

「でさ、あたし今日二者面談なんだよ、だからホント悪いんだけど任せてもいい?」

「うん、いいよ。」

「ホントごめん!次はあたしが行くから!」

「いってこった!」






ちょうどいい。これで銀ちゃんと帰ることの出来ない理由が出来た。そんなのずるいかもしれないけれど、仕方が無い。何かひとつひとつに理由がなければ私はいま、押しつぶされてしまう気がするから。
これで私は"銀ちゃんと帰りたくない"じゃなくて"銀ちゃんと帰れない"にうまく変換してしまう。




だって、銀ちゃんが悪いんだ、きっと、






























「それでは、一学期最後の美化委員会を終了します。」







そう委員長の声がして、ガタガタ、と椅子をひく音がする。今日の委員会は中々長かった。時計を見るともう5時をまわっていた。(2時間もあったのか、)
さすがに銀ちゃんももう学校にいないだろうし、よかった。ホッとしてプリントを二つ折りにしてクリアケースに入れる。それから鞄を閉じてから友達の誘い断って会議室を後にする。
だって、もし友達とあのままマックに行って銀ちゃんに会ったら大変だもの。今日はこのまままっすぐ家へ帰ろう。


「よし、はやくかえろ、・・・あ、」


鞄を漁って携帯を取り出そうつるけれど中々見つからず、教室に携帯を忘れたことに気が付いて教室へと戻る。
ぱたぱたぱた、もう夏の始まりだからまだ廊下も明るくて外からは運動部の声が、ひとつ上の階からは吹奏楽部の音がする。


がらり、と教室のドアを開けるとそこには誰もおらず、シン、としていて外からの声と私の足音だけが固い床に跳ねた。



「あったあった。」



教室の真ん中あたりの机の上にぽつん、と置かれたピンク色の携帯を見つけてそれをポケットにしまい、教室を出ようと振り向いたとき私は思わず声を上げてしまった。







「わっ、」










「おせーよ。」そう言って廊下に立っていたのは紛れもなく、今いちばん会いたくなかったひと、銀ちゃんだった。



「び、っくりしたぁ、うそ、ずっと待ってたの・・?」

「おうよ。」

「え、うそ、ごめ、」

「いーよ。別に。」






「おら。帰んぞ。」そう言って歩き出した銀ちゃんに私は思わず言ってしまったのだ。



「ご、ごめん、あたし今日用事あるの、」


どうしてだろう。別にそんな用事何も無い。けれども思わず口から出てしまったのだ。銀ちゃんはぴたりと止まって私を見る。


「ねえ、」

「な、なに?」

「俺のこと避けてるでしょ?」

「!そんなことッ、」

「嘘。」




ぐっと腕を掴まれてじっと一直線に目を見られると何も言えなくなる。いつもやる気の無いような目しかしないくせに、こんな時ばっかりそんな目をするだなんて、ずるい、

堅い床の上、あたしは銀ちゃんから目が離せないんだ。(それは、恐い、とかじゃなくて、)



「避けてないよ、」

「嘘でしょ。」

「嘘じゃ、ない。」

「嘘。」



たまらず腕を引っ込めようとするけれど銀ちゃんはそれを許してはくれない。もし、腕さえ離れられればこのまま上手に嘘がつける気がしたのに。
思わず泣きそうになって、それでも銀ちゃんはきっと許してくれない。



「・・・だって、」

「だって、なに?」

「銀ちゃんは、」

「俺が?」

「あの時、あたしが銀ちゃんの家にいったって、いつも、いつもそうだけど、」

「・・・・。」

「銀ちゃん、キス以上なにもしないじゃない、ッ、あたしのこと、どう思ってるのか、わかんないッ、」

「・・・!お、おま、」




あたしはもうそれだけ言うのが精一杯で今すぐ顔を隠してしまいたかった。恥ずかしすぎてどうしようもない。顔も熱い。
そのあと銀ちゃんの顔を死にそうなくらい恥ずかしい気持ちを抱えてハラハラしながら見ていると意外そうな顔をしたあといつもの銀ちゃんの顔になって、なんとも困ったように開いている手で頭を掻いて口を開いた。




「・・・悪かった、ごめん。」

「・・・・、」

「それはさ、俺、」

「・・・・、」

「あー、なんていうの、マジ、笑うなよ?」

「、うん。」

「初めてなわけ。こーゆうの。」

「・・え?」

「いや、だからね、俺、チェリーボーイなの。」

「・・・へ?!」

「あのね、だから、こーいうの初めてで、もし、さあ、失敗とかしたらめっちゃダサいじゃんか、俺、」



銀ちゃんは顔を隠しながらそのままと廊下に屈んで顔を隠してしまった。耳まで真っ赤だから、きっと顔はひどく赤いの違いない。



「・・・ぷっ、」


「あー。おれ、だっせー、」


「あはは、はは、」




あたしはなんだか急に力が抜けてしまって声を出して笑ってしまった。なによあたしたち、馬鹿みたい!




「あー。うるせー!笑うな。」

「あははははは、ご、ごめ、ふふ、」

「あーもー!」




そう言って銀ちゃんはあたしの手をグイ、と引っ張るからあたしはバランスを崩してそのまま倒れてしまった。それから気が付けば、あたしと銀ちゃんの顔は随分と近くて唇を重ねていた。



「・・・おら、帰んぞ!」



そういって立ち上がる銀ちゃんを追いかける。



「あ、そういえば、」

「今度は何だよ。」

「なんで昨日は私を追いかけてくれなかったの?」

「・・・・。」

「ねー、なんで?」

「・・・・。」

「聞いてる?」

「・・・だからね、」

「なんかもう申し訳ないんだけどキスだけで勃っちゃったの、」

「・・・!」

「おめーそれで外なんか出て追いかけられるかっつーの。」




ますます馬鹿みたいね、あたし達。なんて笑って、全部の気持ちに落ち着く。



「じゃあ今日また俺んちおいで。」

「じゃー帰りにコンビニでゴムでも買う?」

「家にあります。」

「・・!なによ結局銀ちゃんヤる気満々だったんじゃない!」




なんて、笑いながら銀ちゃんを蹴っ飛ばして、その日はふたりで手を繋いで帰った。














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長く時間が空いてしまって本当にすみませんでした・・・・(ホントだよお前!)
次でいよいよラストです!というかこれ、一話書くのに四ヶ月かかった私っていったい・・・!orz


06.7.23