今にも泣き出してしまいたかったのに、わたしはそれを我慢した。いつか来る日のために。 「好き」たまらずそう伝えてしまった。その戦争中には相応しくない言葉は硬い床に跳ねた。 わたしはただただできる限りぴんと背筋を伸ばして真っ直ぐ銀さんの方を見た。 彼はすごく驚いたような顔をした後少し下を見てから、 「悪ぃ。」そうぼそりと呟いた。何処にも受け止めてもらえなくなった言葉はただ虚しく反射を繰り返すしかなかった。 今すぐにでも泣いて何処かへ走り去ってしまいたい。どうしてわたしじゃ駄目なのか問い詰めたかった。 そんな気持ちを無理やり飲みこんで声を絞り出した。「ああ、残念!」へらりとしただらしの無い笑顔ももちろん一緒に。 「そんな顔しないでよー。」「なんかこっちまで暗くなるじゃない!」へらりへらりと笑いながら明るく振舞う。これ以上の言葉はもう言わない。 声が震えてしまうから。「じゃ、また後で!」それだけ最後に搾り出して部屋を出た。それからのふたりはいつものふたりだった。 それは一緒にいる間、ずっと変わらなかった。その後、ひとり自分の部屋でめそめそと小さく声をかみ殺して泣きながら思った。 よくがんばった。こうするべきだったんだよ。いつか来る日のために。ただひたすらに、そう思った。 それから何年も経って戦争なんてもう昔のことになってしまってみんなばらばらになった。わたしはすっかり普通の生活を送っている。 あれから何人かのひととも付き合ったし、もう普通なのだ。そんな風な日が続いいていて、それが日常となったある日にわたしはがやがやと騒がしい居酒屋に来ていた。 きょろきょろと辺りを見渡せば少し他の声に混じりながら「おいこっち、、こっちこっち。」そう聞こえる。ぱっと振り向けばそこには懐かしい人がいるのだ。 ずっと一緒にいた、愛しい彼等に顔がすっかり緩む。「久しぶりじゃのー!」「元気だったか?」そんな風な彼等がたまらなく懐かしかった。 それから一番奥の席にだるそうに座っているのはやっぱりあなた。銀さん。「おーす。」懐かしい声にまた顔がへにゃりと曲がってしまう。 「おす!」そう返してもそもそと座敷に上がって「熱燗ひとつ!」とお店のお姉さんに声を掛けたらそこからはもう止まらない。 あれからみんな何をしていたかとか、彼氏はできただとか彼女はいないのかだとか、他愛の無い話がどんどんあふれ出す。それからどれくらいが経っただろう? 「わたしね、結婚するの。」そう言うとみんなは少し驚いて、「びっくりした、おめでとう。」そんな風に次々嬉しい言葉を降り注いでくれる。 それから、すぅと息を吸ってとびきりの笑顔で



「私ね、銀さんのこと、すごく好きだったんだよ!」



今日この日、ああそんなことあったなあなんて笑ってお酒を飲むためにわたしはあの時ふんばったのだ。 あとは、ほら銀さんの「あったなあ、そんなことも。」なんていう声の後にお酒を飲みながら思い出話を咲かせればいい。 ああ、笑顔でこの日が来たことに、乾杯!


















乾杯!









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どんなことがあってもいつか笑って「そんなことあったね」といえる日がきっと来るんだろうな。
ていう話です。そういう人生を送りたいなあなんて思ってます!
わかりにくくてすみません・・・!


06.04.9