時々思うのだけど、わたしは病気かもしれない。
蝉の声を後ろにしながら熱い道路を歩く。
まるで焼かれているようで、聞こえるはずもないジリジリという音さえ聞こえる。
目の前の道なんて暑さでゆらゆらと捻じ曲がっている。もう本当に暑い。
これって暑いじゃなくて熱いでもいいんじゃないの?

昼時のせいか町は静まり返っていて、時折、風鈴の音が温風に仰がれてねっとりと落ちる音と蝉の騒がしい声だけがしていた。
ふうふうと息があがる。一応日傘を差してはいるけれどもとても暑さは防ぎきれてない。
もうなんだこれ、熱すぎる。一歩進むたび、ふうふう。また息があがる。
頭もくらくらしてきた。もうだめ。少しでも涼しい場所を求めて土手を降りていってみた。
川の横を歩くと少しひんやりして涼しい。水はサラサラと流れていて、暑さなんて関係がないみたいだ。
そんな風に土手を下りていくとまた少しだけ息があがった。ふうふう。
そういえば、あの時あの人もこんな風に息があがっていたっけ。

彼は泥と血に塗れてて赤黒かった。それでも顔だけはすごく綺麗だった。
周りは灰色で多い尽くされていて、たくさんの人が死んでいく中だから、誰も人の死なんて気に掛けていなかった。
だからわたしと彼の二人だけ滅茶苦茶になった何かとか、人の屍の中うずくまって違う世界にいた。
そう。あのときの彼の息はふうふうと短く苦しそうにあがっていた。
わたしは泣いたけど、彼は泣かなかった。それからふうふうと息をしながらぽつりと

「ごめん」

それだけ呟いた。







”ごめん”







ちらちら光る川の方から彼の声が聞こえた気がした。
ふらふらと川へ近づいて川の淵にかがむ。
ちらり、光る水の中に彼が見えた。

”ごめん、寂しかったろう?”
いいえそんなことないわ。だって貴方はまたわたしの前に現れてくれたじゃない。
”そう、それならよかった。”
ごめんなさい。嘘よ。本当は寂しかったわ。すごく。
”そう、ごめんね。”
彼はこっちを見て微笑んでる。あの時みたいに息はあがってない。
”長く待たせてごめんね、”
ううん。平気よ。
”じゃあ行こうか。”
ええ、

彼はわたしに向かってそっと手を差し出した。
彼の手を掴まなくちゃ。彼の手が近づくとひんやりした。
ああ、あと少し。あと少し、ひんやり。


















。」

















「!!」

















「何してんの。暑いからって、」

声をするほうに顔を向けてみるとそこにはスーパーの袋を持った銀さんが立っていた。

「ぎ、んさん。」

気がついたらわたしは今にも川に落ちそうなくらい淵から乗り出していた。
思わず勢いよくバッと身を引いてしまった。

「どうしたの?」

「あ、たし、あたし・・今、いま・・・」

わたしがこういう風になるときは決まっているらしくて銀さんはすぐに気がついてくれた。

「うん。」

「あ、あの人の、声が、そこで、庄次の、こえが・・・」

「うん。」

「行こうって、手を、手をね、差し出してくれたの・・・」

「うん。」

「だから、あたし、手を、その、手を・・・」

「うん。よし、」





銀さんがどんどん近づいてきてわたしの目の前の川の中をぱしゃりと手で引き裂いた。
ゆらゆらと大きく揺れてさっきまで彼がいた水面には銀さんが、映っていた。





「よし、帰っか。」

よいしょ、といわんばかりに立ち上がった銀さんは上を向いていた。

「・・うん。」

「お前うち来る途中だったんでしょ?」

「うん。」

「おら、行くぞ。」

そういって銀さんはわたしの手をしっかりと掴んでくれた。暖かくて汗ばんでる。
銀さん、ありがとう。
ちらちら光る川を後ろにわたし達はゆっくりと歩き出した。





















夏の日の病、



-------------------------------------------------



雰囲気あるお話が書きたかったんです。書けなかったです。(反省

捕捉がかなり必要ですね、はい、ええとヒロイン攘夷戦争に参加しました。
そこで恋人の庄次さんを亡くしました。こんな感じです。

06