これはおかしい。割と長い間一緒にいるけれど、こんなことは初めてだ。うーむ、とドアの隙間から見える落ち着かない背中を見ながら考え込む。
そわそわそわそわ、まるでそう聞こえてきそうなほどに揺れたり急に頭を振ったりかいたり、なにやらひとりつっこみをした後ソファに頭たたきつけたり。どうしたというのだろう。なんかちょっと怖いんですけど銀時さん。


遡ること一ヶ月。長いこと一緒にいることの多かった銀さんがようやくあやふやだった私達の関係をぶち壊してくれたのだ。つまりはまあ半ば逆ギレに近いわけのわからない告白をされめでたく付き合い始めた私達なわけでして。しかしながら付きあうたってハイ、じゃあいまから付き合いましたんでそういう雰囲気出してくださーい。ここから雰囲気切り替えてこー。というわけにもいかず、付き合うまでとなんら変わりない関係が続いている。銀ちゃんの家でごろごろしながらテレビ見たり。神楽ちゃんと新八くんも一緒になってご飯食べたり。沈黙が重い関係も卒業たわけで、今日もいつもどおり銀ちゃんの家でごろごろしながらテレビを見てご飯を食べてそれからまたテレビをぼーっとみていた。神楽ちゃんは新八くんのお家に泊まりに行ってしまっているからか、なんとなく静かで寂しい。
そうこうしているうちに気がつけばもう12時近かった。そろそろ帰らなきゃなあーなんて、テレビがだらしなく流れる部屋を立ちトイレに行った。
そして今に至る。用を済ませてトイレから出てテレビのある部屋に戻ろうとしたらテレビを見ていたはずの銀ちゃんがなにやら奇妙な行動をとっている。なんなのだ。あれは。正直怖いです銀時さん。思わずドアの隙間からその様子をしばらく見てみることにした。


「あ〜・・だからそれは・・」

「いやいやいやいや・・女々しい・・女々しいそれはないな俺今いくつだと思ってんのもうすぐ三十路ィイイ!」

「・・・・あああ」


小声ではあるがばっちり聞こえるが意味がよくわからない。そして意図もわからない。



「・・・・銀ちゃん・・?なにしてんの・・・?」


「ぅえああっ!?あっ・・ああ、しょんべん終わったのか、あ、ああお疲れ。」

「ど、どうも。」


何だお疲れって。このまま見ててもしょうがないということで恐る恐る後ろから声をかけてみると、聞いたことの無い素っ頓狂な声をあげて振り向きながら銀ちゃんはやっぱりどこかおかしいことを言う。なんだよお疲れって。



「銀ちゃん、あたしそろそろ帰るね。」

「はっ、え、あああ・・帰る、・・帰んの?」

「うん、もう12時だし。」

「あー・・まあ、ああ、そ、だな。」

「じゃあまたね。また連絡する。」

「お、おー・・・」

「おやすみ。今日はありがとねー。」



そう言って玄関を出て階段を半分ほど降りたところで、後ろからがらがらっと勢いよくドアの開く音と共に声がした。



「きゅうこっ!」

「っ!!!!」


タクシーつかまるかなーなんて考えはじめていたところで、あまりにいきなりだったのでものすごく驚いてしまった。


「な、なに・・銀ちゃん・・・びっくり、した・・」

「えっと、お前あれだ、あのー。」

「なに?」

「えーとだな、あれだ、ほらっ、」

「だから、なにっ!」



わけのわからないことをぶつぶつ言っている銀ちゃんにちょっといらいらしてしまい思わず少しキツい口調で返してしまった。



「・・・・・・・・帰る、わけ?」

「・・・? 帰るよ。」



何を言うかこの男は。そりゃさっきから帰るっつてんだから帰るに決まってるだろう。本当に今日の銀ちゃんはおかしい。



「ねえ、どうしたの、なんか銀ちゃん変だよ。なんなのさっきから。」

「あの、さあ、だからさあー・・・・あーもう!」


煮え切らない銀ちゃんに少し腹が立って、自分より上の位置にいる奴を離れた位置から軽く睨む。だって変なんだもん、ご飯食べたあとくらいから。ずっと。
それに帰るって言ってるのに何度も同じことを聞いてくるし、なんなんだ。本当に。
銀ちゃんはハアーっと深くため息をついて少し下を向いて、それから眠たそうな目だけじとりとこっちを向かして意を決したかのように口を開いた。







「帰したくないっていうことなんですけど!!!」




「・・・・・・・・へ、」








思わず間抜けな声が出てしまった。だって、ねえ、えっと、え、え、え、
思いもよらない一言にみるみる顔が熱くなるのを感じた。だ、だってそれって、それって、へ、え、ちょっと、えええ?
銀ちゃんも決まり悪そうに頭をかいてどこかそっぽを向いてしまっている。な、なにこれすごく恥ずかしいんですが。


それから銀ちゃんは頭をがしがし掻いたて、こっちをうらめしそうに見て、



「で、帰んの?」




そんな赤い顔して言うかその台詞。







返事はせずにもう一度階段をのぼる。かんかん、と響く音が、お返事ですが何か?







「ったくじれったいねえ!」

「ウルセーンダヨ!バカップル!イマサラジュンジョウブルナ!」



「!!!!!」


階段を上り始めてすぐにしたから聞こえた声にちょっと乙女な気分はぶち壊れて一気に恥ずかしくなって玄関へ飛び込んだ。





「うるせェエエエ!この覗き妖怪どもが!!!帰れ!土に!!!!!」




銀ちゃんのものすごい照れた叫び声だけがあっつい耳に響いた。













大人による大人の純情ラブストーリー









090624