「お兄ちゃん気取りはもうやめて。」
おととい、ガキの頃から妹のようにかわいがっていたに言われた。
その日はいつものように大したことのない大工仕事に手伝いから帰ってくるとこれまたいつものようにがソファの上で携帯電話を持って普通より少し退屈しているような顔をしていた。
「おかえり。」
「ああ、来てたの。」
「うん。新八くんは?」
「いや、なんかいったん家に帰るって。」
ふうん。となんとなくの返事を返したの持っていた携帯電話がぶるぶる震えてちかちか光った。
「飯どうするよ。」
「んー。」
伸びた声をあげるはたぶん話の内容をちゃんと聞いていない。携帯電話のボタンを若者特有の速さで打つ音が聞こえる。俺はちょっとお前聞いてんのーと作業着を脱ぎつつなんてこと無いいまどきの子供に話しかける。
開きっぱなしの携帯電話の画面を見ながらは面倒くさそうに口を開いた。
「今日ごはんはいいや。」
「家で食うの?」
「んーん。」
「じゃ、どうすんだよ。」
「なんか友達と会う。」
「ふーん、」
男なのだろうか。今まで浮いた話をひとつだって聞いたことが無いこいつだけどふとそんなことを考えた。もう18になるとはいえまだまだガキだし、ましてや普通よりもこいつはガキっぽかった。だから何の気なしにからかう様に聞いてやった。
「男?」
にやにやとしながらまるでゴシップを追いかけるえげつない記者のような顔で聞くとはぼんやり答えた。
「うん。」
思わず面食らってしまった。「へ?」間抜けな声がどこから出るのだろうというような妙な高さで飛び出した。いま擬音をつけるならまさに「ずるり」と言った感じだ。男?まじで?冗談だろー。どうせあれだろ?またいつもみたいにムキになってるんじゃなくて?
「おんなのこも、いるけど。」
ああ、あれか、こいつも学生だしサークルとかなんかそんなんの飲み会だとかそういう感じか。少しホッとしてまたニヤけ顔に戻っておどけた声を出した。
「あーあれね。はいはい。なんだてっきり銀さんあれかと思っちゃったよ。うんうん。」
「あれって?」
「いや、ちゃんたらいっちょ前にデートなんかしちゃうのかと思ったら。なーんだ残念残念。お前にはまだ早いな。」
けらけらと笑いながら余裕たっぷりに言ってやる。そうだよなんだ、こいつはまだまだ、ガキだ。
「デートじゃないよ。」
「わーってるよそんなん。まー早くちゃんもそういう相手ができるといいですねえ〜。」
はあー風呂だ風呂だととパンツ一枚で洗面所に向かおうとすると後ろから声がした。いやに、まじめな声が。
「デートじゃないよ。」
どうしたのか。わかってるそんなこと。
「わかってるって。」
「でも銀ちゃんが考えてるようなのじゃないよ。」
「ハア?」
なにそれ?どーゆうことよ。俺はさっぱりわからなくて、何を言ってるんだかコイツというような顔をして振り返ってやった。
「なによそれじゃあ何だっての。」
「私もう子供じゃないよ。」
「あーあーはいはい。そうね悪かったはもう子供じゃないな。でも、大人でもねーだろうが。」
わははと笑ってタオルを肩にかけてもう一歩風呂場へと踏み出した。
「大人じゃないけど、子供でもないんだよ。」
「・・・どうしたの?お前。」
いつもと違うのは退屈のせいなのかと思っていたけれどそれもどうやら違うようだ。
「きょうは男の子と遊ぶよ。私のこと好きなんだって。」
「は、?」
「ちゃんとあとみっちゃんと、私のこと好きな男の子とあともうふたり。」
ん、あれっ
それってお前。
「合コンじゃねえか・・・・」
「そーだよ。」
こいつが?合コン?合コンといえば?あの?いわゆる?・・・・合体コンパじゃねえかァアアアアアアアア!!!
「おまっ!!ぜってえダメだからな!そんなの!銀さんは許さねえぞ!」
ずかずかと驚くくらいの大股であっけらかんと答えるコイツに詰め寄り肩をがっしり掴んで揺らした。
「さっきまでそういう相手できればいいのにって言ってたくせに。」
「それはなんか違う次元の話だろうが!おまえそんなん合コンって何の略だか知ってんのか?!合体コンパだぞ合体コンパ!」
「銀ちゃんさっきと言ってること違う。」
「いーから!携帯貸しなさい!お前!ぜってええええダメだかんな!そんなん!」
「なにそれ。」
「そんなんお前!そんんあ盛りのついた男とだな、しかも好意を抱いてるやつと酒飲むなんてのはもういわゆる一晩おっけーのサインなんだぞ!」
「おっけーしちゃだめなの?」
「っおっっっまえ!だめに決まってんだろうが!嫁入り前だぞ!おっまっえ!」
「銀ちゃん私が男の子とそういう風になるのいやなの?」
「いやとかじゃなくこれは責任の問題だぞお前!お前をそういう淫行の道に進ませるわけにはいかねーの!」
そういうと今までぼんやりとしていたはしっかり俺の顔を見て、目を見て、ひどく真剣な顔でつぶやいた。
「・・・じゃないくせに。」
「ん?」
ぱくぱくと動く小さめの口からどんな言葉を言っているのか聞きとれず聞き返す。
「お兄ちゃん気取りはもうやめて。」
今度ははっきり聞き取れた。驚くくらい真剣な目で言われたそれに思わずたじろぐ。
「お、おまえなあ、反抗期ですかコノヤロー」
「知らないよ、銀ちゃんばか。」
そう言って思わず少し緩めてしまった俺の手を振り払うとはそのまま携帯を掴んで、玄関へ向かってしまった。一度も振り返ることも、せず。
「なん、だ。ありゃ。」
カンカンカンカンと階段を小走り気味に走る音を聞きながら呆気にとられた顔でひとり呟いた。
「あんた、馬鹿でしょ。」
すっと玄間のほうから部屋に入ってきたのはやけに神妙な顔つきで俺を睨む新八だった。なに、お前、聞いてたのかよ。
「あんた、馬鹿だよ。」
もう一度言われたそれに俺は何が何だかわからずぽかんと口を開けたあほ面をしていた。
080914